アニメ「小林さんちのメイドラゴン」を見てくれ。

大変すばらしいアニメに巡り会えたので、この気持ちを思い出せるように書き起こします。

その名は「小林さんちのメイドラゴン」。クール教信者氏原作の、30分1クール13話の深夜アニメです。

(若干のネタバレ要素含むので注意してください。)

「異世界からやってきたドラゴン(♀)がひょんとなことから独身OLのアパートに居候する」
これがこの作品のあらすじ、いわば"逆"異世界モノです。
加えてドラゴンは魔法の力でメイドさんに変身します。メイド+ドラゴンでメイドラゴン。安易。
これだけ書くと凡作臭が凄まじいのですが、そこで終わらないのがこの作品の凄さです。

主要な登場人物は3人です。正直、他は引き立て役というか、物語の根幹には関わらないので割愛します。
物語の舞台は「この世界(小林さん達の暮らす非SFな世界)」と、トールたちが元いた「むこうの世界」の2つです。

・小林(こばやし)
主人公。25歳独身。女性(重要)。友達がほとんどいない。

トール
ヒロイン。ドラゴン。人間換算20台前半(実年齢はそれ以上)。女性。

・カンナカムイ(愛称はカンナ)
サブヒロイン(?)。ドラゴン。幼女枠。人間換算9歳前後。女性。


さて、物語は、メイド姿のトールが小林さん家を尋ねるところから始まります。
家主の小林さんは唐突な出来事に戸惑いつつも、場の流れで居候することが決まり、そこから小林さんとトールの奇妙な関係が始まります。

向こうの世界のトールは、端的に言えば世界のほとんど全てに憎まれる立場でした。(人間、神、他勢力のドラゴン等…)
そんな彼女がこの世界に辿り着いたのは、神との戦いで深手を負い、ただ命からがら逃げ延びただけでした。
(そして、ただ死を待つのみの状況でした。)
そんな場にたまたま出くわしたのが、ヤケ酒でべろんべろんに酔った小林さん。
彼女は、トールに深々と刺さった聖剣(真人間には触れることするらできない…)を引き抜き、ただお願いします。「私の愚痴を聞け」、と。
最終的に小林さんとトールは意気投合し、行き場の無いトールを小林さんが「うちくる?」と心配したのが、シラフでの出会いの真相でした。
この最初の出会いを、小林さんはしばらく忘れたままでした(うたた寝の夢で思い出します)。

ちなみにドラゴンという生き物の精神は、生きてる時間では無く寿命の割り算で語られる様です。
実年齢では間違いなくトールのほうが年上ですが、精神年齢は小林さんのほうが多少上のようです。


(ここから考察)
トールの心境
向こうの世界の立場と精神年齢から察するに、トールは自分自身を承認してほしかったのだと思います。
彼女の行動理論(うまい言葉が浮かばなかったのでそう呼びます)は、大まかに2つあります。
ドラゴンとしてのトール、そしてトールとしてのトール

彼女は、出生や実際の力を含めて、ドラゴンの中ではかなり高位の立場であったようです。
しかしドラゴンも一枚岩ではなく、「世界を滅ぼそうとする勢力」「人間など多種との調和を望む勢力」「まるで我関せずの勢力」の3つがあります。
トールが属するのはこのうちの1つ目、世界を滅ぼそうとする勢力です。
この勢力自体の行動理論の根底は謎ですが、おおよそ「我が種以外は愚かであるから滅ぼすべき」、そういう考えでしょう。

彼女は、父親や周りに求められ、世界を滅ぼすべく活動していました。自分自身が決めたことではなく、他者の願いによって。
彼女は、向こうの世界ではその「ドラゴンのトール」のみを求められていました。
彼女自身も苦悩はあったようです。世界を滅ぼすことに疑問は無いが、この戦いが終わったら私に何が残るのか、と。
自分が自分である理由はなんなのだ、と。

そんな中小林さんに出会い、命を助けられ、酒を酌み交わし、励まし励まされ、初めて「トールとしてのトール」が芽生えたのではないかと考えます。
実はこのイベントには前日譚のような出来事がありますが、それは割愛。アニメをみてくれ。

このときのトールの精神状況をもうすこし整理してみます。
彼女の友人(ドラゴン)曰く、彼女は「あまり笑わない子」だったようです。
ただ与えられた使命をこなす、心の動かない日々。
そんな彼女が、初めて立場に囚われずに話すことができた相手が小林さんです。

肉体的にも精神的にも参っている状況で、立場に囚われずに「トールとしてのトール」に接してくれる小林さん。
ドラゴンとしてでなく、トール自身の意思に共感し、慰めてくれる小林さんにトールはノックアウトされたのだと思います。
トドメは「うちくる?」ですよ。「後のことは全部私に任せてついてこい」と同義ですよ。惚れる。

(ここまで考察)

結果としてトールは小林さんにベタ惚れ、一方の小林さんは(イマイチ覚えていないせいで)なんで好いてもらっているのかよくわからない状態。
このような図式が出来上がります。
そして、トールが一般常識を理解し生活に馴染んできた頃に、もう一人のお尋ねドラゴンがやってきます。
その名はカンナカムイ。ペドラゴンです。
トールを様付けで呼ぶほどに慕う彼女は、たまたまトールが発した魔力を手がかりに居場所を特定したのでした。

彼女は向こうの世界から逃げ延びたわけではなく、両親からの罰としてこの世界に送られてきた身です。
彼女はドラゴンの勢力には特に属していない様ですが、両親には「人間は信じるな」と教わってきました。
その教えを守り、最初は小林さんとトールを引き離そうとします。
しかし、小林さんはカンナちゃんを自慢の甲斐性でもって抱き込みます。
「仲良くしようとは思わない、ただ、一生にいよう」。またもプロポーズです。小林さんのお嫁さんにしてほしい。
この世界に送られてかなりの時間が経っている(と思われる)カンナちゃんに、この言葉は相当応えたようです。
「人間は悪い生き物だと教わった、でもトール様と一緒に暮らしているこの人間なら信じて良いのかもしれない…」と思ったのでしょうか。
後に、彼女は小林さんから人間そのものへと興味を移し、「小林」の姓を貰って小学校にすら通い始めます。


…と、ここまでが3話の大まかな流れなのですが、ただの日常系とはとても言い切れないです。
この作品は、「押しかけメイドとOLのドタバタコメディ」でなく、「異形の者と人間のハートフルコメディ」といえます。
私自身としては、小林さんとの日常でトールの(人間に対する)価値観がどう変わっていくのかが、ただただ見ていて楽しかったです。


(ここから考察 13話の内容を含みます)
・小林さんの心境
ここまでこの作品に浸かっているのも、小林さんと私自身の境遇が似ていて、スムーズに感情移入できたというのもあります。
精神が病みまくってるときに、自分を慕ってくれて、家で温かいご飯を用意して待ってくれる存在が現れたら、どれほど救われたでしょうか。
私なら「おかえりなさい!」だけで最初の1週間くらいは泣いてる自信があります。

さて、そんな小林さんですが、トールを迎えて最初の頃は、「すごく嬉しいんだけど、理由が分からない」そわそわした状況だったのだと思います。
彼女は、会社の後輩の「以前と比べて明るくなりましたね」の一言で、徐々にトールと、トールを迎えて変わっていった自分を意識していった様です。
しかし、トールに対する具体的な感情は生まれないまま、「この空間は居心地がいい」と過ごしているように見えます。

トールが小林さんに対する感情は1話から揺るぎないのですが、その逆、小林さんのトールに対する感情は、最終話がターニングポイントといえます。
トールが家庭の事情で向こうの世界に帰り、小林さんは初めて「トールの居ない世界」に直面します。いえ、以前もそうであったはずなのですが。
彼女は、以前の自分に戻っただけだと必死に彼女自身に言い聞かせますが、生活態度は正直で、気がつけば部屋は荒れ、嫌でも自分の精神状態を目の当たりにします。
そこで初めて彼女はトールが自分のどれほどを支えてくれていたのかに気がつくわけです。
トドメの一言、「オムライス、美味しかったよ、って言ってあげればよかったな…」と。
照れ隠しばかりで、気持ちを素直に伝えたことはあまり無かったと後悔します。

本編ではその後の描写はありませんが、おそらく1人で大泣きしていたのではないかな、と思います。
そのために、カンナちゃんをカンナちゃんの友達の家にあずけて。

さて、やかましくドアをノックする音で目が覚める彼女は、後に続く声でそれがトールのものだと認識します。
そのままトールと状況を確認し、同時に自分自身の感情の高ぶりに困惑しているようです。
(目線が左下を向くのは、心理学的に自問自答のニュアンスが強いそうです。)

続いて現れたトール父親を、脅しに屈すること無く言い負かす彼女の気持ちは、最早自分の生死よりもトールを失うことのほうが悲しく、怖かったようです。
最終的に力で屈服させようとしたトール父を再び言い負かし、彼女はトールに対する自分の気持ちをようやく理解します。
続いて小林さんが自分と同じ気持ちだと分かり、感極まったトールが抱きついてくる。
涙なしには見られないシーンでした。

(ここまで考察)


さて、この作品は主人公とヒロインがどちらも女性なわけですが、これを単純にレズカップル、とハンコを押すのはあまりにも安直すぎる行いだと思います。
人とドラゴンの種を超えた深い愛情の前に、性別など些細な問題なわけです。
たまたま両方女性であった、この表現が一番妥当です。


この作品、異種間恋愛の命題として当然寿命についても語られる描写があります。
小林さんはそれほど気にしていないようですが、一方のトールは頻繁に自問自答するほど苦悩しているようです。
「今、この瞬間は間違いなく幸せで楽しいが、それは何時まで続くのか?」と。
この問いに、彼女は2つの答えを出しています。
「この瞬間を失った時、それは後悔とは呼ばないと思う。」
「今しかないこの時間を大切に生きていきたい。」と。
また、エンディング曲でも歌われています。「永遠なんかより、尊い時間」「ここにいる人が大好き」と。
トールトールなりに、いつか終わりが来ることを理解しつつ、そのための今を精一杯謳歌しようとしているのだと思います。

 

私は最初、「瞳の書きこみと髪のグラデーション凝ってるなあ」くらいしか思いませんでした。
しかし気がつけば作品に引き込まれ、気がつけば毎話10周近く見ている始末です。
これは5周目くらいで気がついたのですが、登場人物の感情と行動が矛盾するシーンがほとんど無いんですよね。
きっとそこに惹かれたのだと思います。
(トールとエルマの関係だけは説明不足というか、一部うーん…てところはありましたが…)
すると登場人物誰もが魅力的に見えてくる。完全に沼ですね。ありがとうございました。
加えて退職直前の私のズタボロ精神を支えてくれた作品でもありました。

ありがとう、小林さんちのメイドラゴン。円盤以外に何を買ったらいいですか。全部買います。